アートに触れるメルボルンの旅。ビクトリア国立美術館で出会う5つの作品
メルボルン観光でぜひ訪れたい場所のひとつが、ビクトリア国立美術館(National Gallery of Victoria/NGV)。1861年に設立されたオーストラリア最古の公立美術館で、ヨーロッパの古典絵画からアジア美術、現代アート、デザインまで、幅広いコレクションを所蔵している。

今回紹介する「NGV International」は、メルボルンの中心部からアクセスしやすいセント・キルダ・ロード沿いに位置する。周辺には戦争慰霊碑(Shrine of Remembrance)や王立植物園(Royal Botanic Gardens Victoria)もあり、あわせて散策するのもおすすめだ。ただし、NGVのコレクションはとにかく膨大。すべてをじっくり鑑賞しようとすると、あっという間に時間が過ぎてしまう。旅行中の限られた時間を有効に使うなら、あらかじめ見たい作品を決めておくのがポイント。今回は館内の見どころとともに、1〜2時間の滞在でもぜひチェックしたい名作5点を紹介する。
草間彌生の巨大なカボチャと、色鮮やかなステンドグラス
NGV Internationalを訪れたら、展示室に向かう前に建物そのものにも注目したい。
まず目を引くのが、日本を代表する現代アーティスト、草間彌生による《Dancing Pumpkin(ダンシング・パンプキン)》だ。黄色と黒の水玉模様で彩られた巨大なカボチャは、高さ約5m。11本の脚が伸びるユニークな造形で、まるでカボチャが踊っているかのように見える。

この作品は、ただ遠くから眺めるだけではない。脚の間を歩いたり、作品の下をくぐったりすることもできる。間近で見ると、その大きさと独特の曲線に圧倒されるはずだ。

さらに見逃せないのが、館内の「グレート・ホール」に広がるステンドグラスの天井。オーストラリアのアーティスト、レナード・フレンチが手がけたもので、1968年の建物開館時から親しまれている。幾何学的な模様と色とりどりのガラスが組み合わさり、天井全体が巨大なアート作品になっている。おすすめは、床に座ったり、寝転んだりしながら天井を見上げること。光を透かして輝く色彩は、見る角度によって印象が変わる。どちらもフォトジェニックなスポットなので、展示室に入る前から写真を撮る手が止まらなくなるかもしれない。

1〜2時間で巡るなら。見逃せない名作5選
旅行先では、観光や食事など、ついスケジュールを詰め込みがち。美術館に何時間も滞在するのが難しい場合は、代表的な作品を中心に巡るのもひとつの楽しみ方だ。ここでは、NGV Internationalのコレクションから、ぜひ鑑賞しておきたい5点を紹介する。なお、所蔵作品は特別展への貸し出しや展示替えなどによって、常に同じ場所で鑑賞できるとは限らない。訪問前には、NGV公式サイトのコレクション検索で最新の展示状況を確認しておこう。
1. パブロ・ピカソ《泣く女》(1937年)
展示場所の目安:Level 2/19世紀末〜20世紀初頭の絵画・装飾芸術ギャラリー
NGVを代表する名作として、真っ先に挙げたいのがパブロ・ピカソの《泣く女(Weeping Woman)》だ。鮮やかな色彩と鋭い線で描かれた女性の顔は、複数の角度から見た姿が重なり合うように構成されている。大きく見開かれた目、ハンカチを噛みしめる口元、頬を伝う涙。悲しみや苦しみが、見る人に強烈な印象を残す。

制作された1937年は、スペイン内戦のさなか。同じ年、ピカソはドイツ軍などによるスペイン北部ゲルニカへの空爆を題材に、反戦の象徴として知られる大作《ゲルニカ》を制作した。《泣く女》は、その《ゲルニカ》に登場する、亡くなった子どもを抱いて泣き叫ぶ母親の姿と深く結びついている。戦争によって引き起こされる悲しみを、ひとりの女性の表情に凝縮した作品ともいえるだろう。
また、同じフロアではピカソの陶芸作品にも注目したい。皿や壺などの日常的な器に、人物の顔や動物を大胆に描いた作品からは、絵画とはまた違った遊び心が感じられる。ピカソの多彩な表現を知るうえでも、あわせて鑑賞しておきたい。

2. クロード・モネ《ヴェトゥイユ》(1879年)
展示場所の目安:Level 2/19世紀末〜20世紀初頭の絵画・装飾芸術ギャラリー
印象派を代表する画家、クロード・モネの《ヴェトゥイユ(Vétheuil)》も、NGVのコレクションを代表する作品のひとつ。ヴェトゥイユは、モネが暮らしたことのあるフランス・セーヌ川沿いの村。モネはこの土地の風景を繰り返し描き、時間や天候によって変化する光を捉えようとした。
作品では、川辺の風景が軽やかな筆致と繊細な色彩で表現されている。輪郭を細かく描き込むのではなく、光や空気の印象そのものをキャンバスに残したような一枚だ。近くで絵の具の重なりを観察したあと、少し離れて全体を眺めると、風景が自然につながって見えてくる。印象派ならではの表現を、ぜひ実物で味わいたい。
3. レンブラント《議論する二人の老人》(1628年)
展示場所の目安:17世紀ヨーロッパ絵画の展示エリア(展示室は要確認)
オランダ黄金時代を代表する画家、レンブラントの初期作品《議論する二人の老人(Two Old Men Disputing)》。テーブルを挟んで向き合う二人の老人が描かれ、室内には印象的な光と影が広がっている。
レンブラントといえば、人物の内面まで描き出すような肖像画や、劇的な明暗表現で知られる画家。この作品でも、顔や手元に差し込む光によって、二人の間に流れる緊張感や思索の時間が浮かび上がる。制作は1628年。レンブラントがまだ20代前半だった頃の作品という点にも驚かされる。華やかな色彩ではなく、光の使い方で人の視線を引きつける。その巧みさに注目して鑑賞したい。
4. ジャンバッティスタ・ティエポロ《クレオパトラの饗宴》(1743〜1744年)
展示場所の目安:Level 2/17〜18世紀ヨーロッパ絵画の展示エリア
大きなキャンバスに豪華な衣装の人物たちが描かれた《クレオパトラの饗宴(The Banquet of Cleopatra)》は、イタリアの画家ティエポロによる作品。題材は、古代エジプトの女王クレオパトラとローマの将軍マルクス・アントニウスの逸話。クレオパトラが、自らの富と権力を示すため、高価な真珠を酢に溶かして飲み干したという伝説的な場面が描かれている。豪華な建築空間、鮮やかな衣装、人物たちの身ぶりなど、画面の隅々まで見どころが詰まっている。まずは少し離れた場所から絵全体の迫力を感じ、そのあと近づいて人物の表情や装飾を観察してみよう。18世紀ヨーロッパ絵画の華やかさを存分に味わえる作品だ。
5. オーギュスト・ロダン《考える人》(1881〜1882年、1884年鋳造)
展示場所の目安:Level 2/19世紀ヨーロッパ美術の展示エリア
最後に紹介したいのは、フランスの彫刻家オーギュスト・ロダンによる《考える人(The Thinker)》。顎に手を当て、深く思索する男性の姿は、世界でも特に有名な彫刻のひとつだろう。もともとは、ダンテの『神曲』から着想を得た大作《地獄の門》の一部として構想された作品。筋肉の緊張や前かがみの姿勢からは、静かに座っているだけではない、内面の激しい思考が伝わってくるようだ。
注目したいのは、NGVが所蔵する《考える人》が、1884年に鋳造された最初のブロンズ像であること。世界各地にさまざまな鋳造版が存在するなか、ロダンの構想が形になった初期の姿を鑑賞できる、非常に貴重な作品だ。彫刻は絵画と違い、見る位置を変えることで印象が大きく変わる。正面だけでなく、横からも眺めてみると、身体の造形や姿勢の力強さをより感じられるはずだ。

名作を巡ったあとは、メルボルンの街へ
ビクトリア国立美術館の魅力は、世界的な名作を気軽に鑑賞できることだけではない。草間彌生の巨大なカボチャやステンドグラスの天井など、建物を歩くだけでもアートに出会える。常設コレクションは基本的に無料で鑑賞できるため、旅行の合間に立ち寄りやすいのもうれしいポイントだ。
時間が限られているなら、まずは今回紹介した5作品を中心に巡ってみよう。気になる作品が見つかれば、そこからほかの展示へ足を延ばしてみるのもいい。鑑賞後は、近くの戦争慰霊碑や王立植物園へ。美術館で過ごす静かな時間と、緑豊かなメルボルンの街歩きを組み合わせれば、充実した半日を楽しめるだろう。

INFORMATION|National Gallery of Victoria(NGV International)
施設名: ビクトリア国立美術館/NGV International
住所: 180 St Kilda Road, Melbourne VIC 3006, Australia
アクセス: メルボルンCBDからトラムでアクセス可能。「Arts Precinct」停留所下車すぐ。フリンダース・ストリート駅から徒歩約10〜15分
営業時間: 毎日10:00〜17:00
休館日: 12月25日。4月25日(ANZAC Day)は13:00開館
入館料: 常設コレクションは無料。特別展・企画展は別途チケット料金が必要となる場合あり
所要時間の目安: 代表的な作品を中心に鑑賞するなら約1〜2時間。じっくり鑑賞する場合は半日以上
公式サイト: https://www.ngv.vic.gov.au/
※展示作品・展示室・営業時間・特別展の料金は変更される場合があるため、訪問前に公式サイトで最新情報を確認してほしい。